帰化申請をするということは、我々在日韓国人・朝鮮人にとってどのようなことなのでしょうか?
自ら帰化申請をして、日本国籍となった所長の黄 智英がそれをお話しいたします。-
在日韓国人・朝鮮人が帰化申請をして、日本国籍者となるといっても、その理由やその後の影響は各人によりさまざまだと思いますが、まずは簡単に在日韓国人・朝鮮人の経緯に関して簡単に振り返ってみたいと思います。そもそも在日韓国人・朝鮮人の発生は1910年に日本が当時の大韓帝国を植民地化したことが直接的な起源だといってもいいでしょう。この植民地化により当時の朝鮮半島居住者は戸籍制度上はもともとの日本人(内地籍者)とは違う外地籍者という扱いを受けてはいましたが、日本人とされたという経緯がありました。
このような中、様々な理由により、当時の朝鮮半島から日本に渡り、日本で生活を始めたのがいわゆる在日韓国人・朝鮮人の一世と言われる人たちでした。植民地時代は1910年から1945年まで続きましたが、植民地時代に日本で出生した二世の世代は当時日本人として、日本で出生したのでした。そして、戦後、1952年4月にサンフランシスコ講和条約により正式に朝鮮半島の独立が認められると、当時日本に残っていた朝鮮半島出身者とその子供も日本国籍を自動的に離脱したことになり、そこから日本では完全に外国人扱いとなり、あるものは韓国籍となりあるものはいわゆる朝鮮籍となりました。そして日本は国籍に関して血統主義を取っているため、昔は父がまた、現在でも特別な場合を除き父母の一方が子の出生時に日本国籍を所持していないと生まれながらにして日本国籍が与えられないという国籍法になっており、これが在日韓国人・朝鮮人が日本で現在すでに4世、5世の時代になっているにも関わらず、まだ韓国籍・朝鮮籍になっている人が存在している大きな理由となっています。この現実を出生地主義の国(その国で生まれれば原則その国の国籍を取得する国)と比較してみるとどうでしょうか?典型的な例としてアメリカがありますが、韓国からアメリカへの移民者もかなりの数にのぼっていますが、在米韓国人の二世、三世は通常アメリカ国籍を生まれながらに取得しています。また韓国は血統主義の国であるため生まれながらにして二重国籍となります。そしてアメリカは二重国籍容認国なのですが、韓国は原則として二重国籍を認めておらず、生まれながらにして二重国籍となった者に対しては一定の年齢に達するまでに国籍を選択しなければならないことになっており、多くの在米韓国人子弟、特に男性は韓国の兵役の問題もあり、実際に住む国であるアメリカ国籍を選択している人が増えているようです。
また、在日韓国人・朝鮮人と一口にいっても国籍などに関する考えは当然人それぞれ違い、もちろんいろんな考えがあっていいのですが、この日本という地で外国籍を維持しながら生活するにあたり一定の制限が出てくるのも、また一つの現実ではあります。代表的なものとして、公的な選挙権及び被選挙権がないということがあげられます。外国籍住民にも選挙権や被選挙権を求める運動が昔からあり、運動をされている方々もいらっしゃいますが、現実はどうでしょうか? 近い将来に、これが実現する可能性は低いのではないかと考えます。帰化により実際に選挙権及び被選挙権が与えられた場合、各種の公的選挙に立候補しようという人は少数だと思いますが、日本の住民としてまた、納税者として候補者選びのための投票に行き一票を投じてみたいと思う在日韓国人・朝鮮人は少なくはないと想像します。また、公務員になるのも国籍の壁がありなかなか難しいものがあると言えます。これをどのように考えるのかは人それぞれですが、我々、植民地時代の朝鮮半島出身者の子孫は結局のところほとんどの人が日本で今後も継続して住んでいくことが現実的な想定だと思われます。そこで選挙権がないであるとか、公務員になれないとかの制度的壁が避けられない外国籍という立場よりは制度的に日本社会のフル構成員である日本籍を取得して生きることが望ましいのではないかと考えます。またご自身のみならず、お子様がいる方についてもお子様も韓国籍・朝鮮籍の場合は日本の制度が変わらない以上、このような壁を持ち越していってしまうことになります。また日本籍を取得したからといって、民族性までも捨てる必要はなく韓国・朝鮮の民族性を尊重をして生きていきたい方はこの日本という国で韓国系・朝鮮系日本人としてそれを行っていけばよいと考えます。また、姓名に関しても現在、日本で一般に使用されない漢字のものではない限り、本名での帰化も認められますので、本名による日本籍取得を望まれる方もこれが原則的には可能です。
ここで日本の現実はどうなっているかといいますと、戦中、戦後から1990年あたりまでは日本にいる外国人の多くは在日韓国人・朝鮮人でしたが、時代とともに日本の国際化が進み今や、日本に中長期在留者として住んでいる外国人は2017年現在で223万人ほどおりこの中で中国国籍者が73万人程度で外国籍者としては最多となっており、次に韓国(朝鮮)籍者は45万人程でうち、32万人程度が特別永住者ではないかと思われます。もっともこの統計からは帰化をした元在日韓国人・朝鮮人は含まれませんので韓国籍・朝鮮籍を維持している人たちの数となります。第3番目が最近急増しているベトナム国籍者で26万人ほどですが、前年度からの増加率は30パーセントを超えており、急激な伸びを示しています。今後、労働者不足や人口不足に対応して、賛否両論があるものの日本の外国人人口の増加は想像され、日本の内なる国際化は更に進んでいくように思われます。
帰化という言葉は英語でNaturalizationと言われ、語源的には自然化するような感じがします。我々も臆せずに日本国籍を取得して日本社会のフル構成員となり納税等の義務を果たし、その権利自体も同等に持ち、自分たちの民族性の維持、醸成を各個人がどのようにするか決めて生きていけばよいのではないかと考えます。